掲載日 : 2005年11月23日
2001 アウディ TT ロードスター 1.8T クワトロ
第8回:アウディTTで味わう「非日常の日常」
カーデザインに大きな影響を与えた
アウディTTの原型は1995年のフランクフルトショーで発表されたプロトタイプが始まりで、1998年にはほぼそのままの形で市販された。最大の魅力はそのスタイリングで、カーデザインの点で近年もっとも影響を周囲に与えたクルマの一台だ。車名のTTとはかつての英国・マン島で開催された公道レース「Tourist Trophy(ツーリスト・トロフィー)」の頭文字で、アウディの前身のひとつであるNSU社にプリンツTT(1965年)というスポーツセダンがあったことも関係があるようだ。
アウディA3の車台を使った2+2クーペ
メカ的にはシャシーを共有する初代アウディA3およびVWゴルフIV(共に1998年)をベースとした2+2クーペと言えるが、スポーツカーに相応しい性能を得るため1999年に発売された「TT 1.8Tクワトロ」には、ゴルフGTIやアウディA3より大幅にパワーアップした1.8リッターターボ(225ps)とフルタイム4WD「クワトロ」が採用された。
発売当初、欧州ではTTで高速走行中に、減速・旋回時のオーバーステアが起因となった事故が多発。すぐさまサスペンションの設定変更、リアスポイラーおよびESPの標準装着による改善が施され、販売済みの車両もユーザーが希望すれば無償で改修された。
FFの6AT車から3.2・V6のDSG車までバリエーションを拡大
2000年5月にはオープンモデル「TTロードスター」が追加された。2001年1月には約100万円安いFFの右ハンドル・5MTモデル「1.8T」(180ps)が登場。2002年11月には、そのFFモデルがアイシン製6AT仕様に変更された。以降、販売的にはこのモデルがTTの中心モデルになる。
2003年9月には3.2リッターV6(250ps、32.6kg-m)にツインクラッチ式の6速「DSG」を組み合わせた「TTクーペ 3.2 クワトロSライン」が登場。さらに2005年6月には販売が止まっていたTTクーペ1.8Tクワトロをベースに後席を省いて2シーターとし、パワーアップを施した特別仕様車「TTクワトロ スポーツ」(240ps)を限定150台で発売した。
徐々にMT車がフェイドアウト
2005年8月にはTTクーペ1.8TおよびTTロードスター1.8T全車に「S-lineエクステリアパッケージ」(フロント&リヤ専用スポイラー、ドアシルにS-lineプレート、フロントグリルにS-lineエンブレムを装着)を装着。この頃になると、現行カタログモデルはクーペ1.8T(6AT)、ロードスター1.8T(6AT)、3.2クワトロ(6速DSG)と事実上オートマチック車のみに。マニュアル派には選択肢のないラインナップになった。
インポーターによると、99年10月の日本導入から2005年5月までの累計販売台数は、8182台(TTクーペ:7178台、TTロードスター:1004台)。輸入車のクーペモデルとしては大ヒットモデルとなった。

斬新なデザインが最大の魅力
クーペ/ロードスター共にボディサイズは全長4060mm×全幅1765mm×全高1340mm。直接デザインしたのはVWアウディ在籍時代のドイツ系アメリカ人、フリーマン・トーマス(後にクライスラーに移籍)と言われるが、イメージ的にはジェイ・メイズ(後にフォードに移籍)がデザインしたアヴス・クワトロ(1991年)というスーパースポーツコンセプトにも近い。
身近なところでは、ニュービートルのチョップド・ルーフ仕様(ルーフ部分を低くするカスタムの一つ)のようにも見えるが、これはいずれのプラットフォームもアウディA3やゴルフIVと同じであることやデザインチームが同じ(メイズ、トーマスら)だからでは。TTのホイールベースは2430mmで、A3/ゴルフIVより90mm短縮されている。
ロードスターの「モカシン」内装がユニーク
本アルミパーツを散りばめたインテリア。パワーウインドウスイッチが「隠して」あるところなど機能よりデザイン重視の部分もあるが、TTを選ぶ人なら不満はないはず。グラスエリアが小さいので閉塞感が心配だが、室内は横方向に広く、意外にゆったりしている。視界は外から想像するほど悪くない。幌を閉めた時に斜め後ろが死角となるのはオープンカーでは仕方のないところ。
電動ソフトトップの開閉はロックこそ手動(レバーを回転させる)だが、作動速度は10秒以下と速い。風の後ろからの巻き込みを抑える電動ガラス式のディフレクターを装備。ポルシェボクスターもガラス製だが、電動で上下するものは珍しく、形状もユニーク。
ロードスタークワトロの内装は「モカシン」と呼ばれる野球のグローブのようなブラウンレザーが標準。試乗車は4年落ちで、運転席にはヤレが見えたが、特にホツレはなかった。オプションでブラックレザーがあった他、FFモデルはグレーのアルカンタラ/本革が標準で、モカシンとブラックレザーがオプションになっていた。
当時のTTクワトロに標準だったオーディオはカセットステレオ。さすがにそれは不便とみえて、サンプルカーではアウディTTのデザインに似合う社外ヘッドユニットに変更されていた。ただしTTのロゴ付きアルミカバーが出っ張ったユニットに当たって閉まらないのが残念なところ。装着できるナビも限られそうで、このあたりがデザインコンシャスなクルマの難しいところ。
実用性なら断然クーペ
クーペの場合は、後席を倒すとゴルフバッグが2セット収まる荷室が現れるが、ロードスタークワトロは幌の収納スペースと4WDシステムが嵩張り、ユーノスロードスター並み。スーパーカー的な非現実的たたずまいからすれば、納得できるところか。
豪快なターボパワー
サンプルカーは2001年のロードスタークワトロ。6MT、左ハンドル、225psのターボパワー、そしてオープン、モカシン内装などを備えており、アウディTTの中では最もマニアックなモデルの一つ。新車時には消費税込みで525万円だったクルマだが、今回のクルマは280万円余とおおよそ半額。国産の2リッターターボ車と変わらない価格まで下がってきた。
エンジンを始動するとボボボボと高性能ターボ車らしい低い排気音。当時のゴルフGTI(150ps)と基本的に同じ1.8リッターターボだが、TTクワトロはK04タービンによって225psまで増強。国産2リッターターボが280psを発揮するのに比べれば数値的には平凡だが、アクセルを踏み込んだ時の吸い込まれるような加速感は気持ちよく、アクセルオフ時の「プシューン、キュルルル」も気分。ただひたすら速いという無機質な加速ではなく、豪快かつ扱いやすい。1510kgの車重は実にクワトロシステムで+140kg、ロードスター化で+70kgと、最もベーシックなFFクーペ(5MT)より210kgも重いが、公道で普通に走る分には、パワー不足も重さもあまり感じない。
6MTのシフトフィーリングはケーブルっぽいが、ストロークはまずまず短く、ゲートも明瞭でシフトミスしにくい。リバースはポルシェ風に力を込めて左奥。ステアリングは適度に軽く、ペダル類は適度に重く、運転しやすさとスポーツカーらしさを両立している。思えば、今のWRCにターボ4WDをもたらしたのが80年代のアウディクワトロだった。
“ピュアスポーツ”ではない
エンジンはFF縦置きのA4と異なり、A3と同じ横置き。なので細かく言えば、バランスや振動特性の点で縦置きに感覚的には及ばない。また4WDシステムはトルセンセンターデフを使ったA4以上のクワトロとは根本的に異なり、ハルデックス社製の電子制御油圧多板クラッチを使ったもの。常に4輪を駆動するトルセン式クワトロと違って走行抵抗の点は有利だが、限界域の操縦性はピーキーとの指摘もある。
例のオーバーステア対策で、スタビライザーやダンパーを固めた足回りだが、今回のサンプルカーの場合、乗り心地に特に不満はなかった。3リッターセダン並みの重量も一因ではある。ロードスターの場合、剛性感はさすがにクーペより落ちるし、最新のボクスターやZ4に比べるとガッチリ感は少ない。また、狭くて低いところに座って路面を滑るように走るスポーツカー的な感覚はなく、エンジンパワーを除けばカブリオレ的な世界に近い。
しかし、それだからTTは良いのとも言える。適度なターボパワーや低いエンジン音、そしてスタイルを味わいながら街中やハイウェイを流す、という大人のドライブがTTロードスターには相応しい。さらにTTのコンパクトなボディは日本でも扱いやすく、スタイリングもつい立ち止まって眺めてしまうほどいい。オーナーの間で満足度が高い理由もそこにある。
車名: AUDI TT Roadster 1.8T quattro
型式: GN-8NAPXF
寸法: 全長4060mm x 全幅1765mm x 全高1340mm
ホイールベース: 2430mm
車重: 1510kg
駆動方式: フルタイム4WD
エンジン: 1.8リッター直列4気筒5バルブDOHC・ターボ
最高出力: 225ps/5900rpm
最大トルク: 28.6kg-m/2200-5500rpm
トランスミッション: 6MT
使用燃料/容量: プレミアムガソリン/62L
10・15モード燃費: 11.6km/L
タイヤ: 225/45R17
発売時期: 2000年5月(ロードスター1.8Tクワトロ)
当時の新車価格: 500万円(消費税抜き)
試乗車スペック
初年度登録: 2001年
販売価格: 281.4万円(消費税込み) ※AP保証付(12ヶ月間 距離無制限)
走行距離: 32000km
ボディカラー: ニンブスグレー・パールエフェクト
試乗日: 2005年11月
TT固有のものはなく一般的なチェックを
2005年11月現在で、クワトロが登場してから6年、FF車で5年、AT車で3年。趣味性の強いクルマだけに丁寧に乗られたクルマが多く、もともとの品質も高いため、状態の良いクルマが多い。トラブルはメーター不良やスイッチ不良、クーペではハッチゲートからの異音などが出るようだが、特に傾向はなさそうだ。リコールが一部モデルに出ているので購入時に一応チェックした方が良い。
一瞬でもカッコいいと思ったなら
新車価格ではクワトロは500万円弱、後から出たFFモデルが400万円前後ということで、現在のUカー相場は250万~300万円あたりが中心。金額的にも、信頼性の点でも、多くの人が買いやすい輸入スポーツと言える。特に6MT・左ハンドルのクワトロは、非日常的なスーパースポーツの世界を少しだけ覗かせてくれるし、一方で右ハンドルの5MTや6ATも楽しい選択だ。TTは本格ピュアスポーツカーではないゆえ、老若男女、多くの人にお勧めできる傑作クーペになっている。スタイルに惚れたら思い切って購入して欲しい。
文・写真:DAYS・K.Niwa



