掲載日 : 2006年09月16日
1998 フォルクスワーゲン ゴルフ GTI
第31回:「違いが分かる」大人にふさわしいグランドツーリング2ボックスの決定版、Golf IV GTI
ゴルフおよびゴルフIVの歴史やモデル変遷については、すでに第1回の試乗記(ゴルフIVワゴン)で詳しい説明をしているので、ここでは歴代のGTIに絞って話を進めよう。
ホットハッチのトレンドリーダーとして登場したゴルフ
初代ゴルフの「GTI」が発売されたのは'76年。最高出力110PSを絞り出す1.6L直4エンジンを搭載し、最高速度は182km/hと当時の大排気量車に匹敵する性能を実現した。
ゴルフII GTIが日本市場に登場したのは'85年の春。ひとまわり大きくなったボディに対応して、エンジンは1.8Lに拡大。'87年にはDOHCヘッドを持つ1.8L 直列4気筒16バルブを搭載した「GTI 16V」が登場した。
プレミアムな高速ツアラーとしての性格が強まったIII以降
続くゴルフIIIは'93年7月に日本デビュー。145PSを発生する2.0L直4DOHC16バルブエンジンを搭載した。車重は1.2tに達し、もはやホットハッチと呼ぶにはいささか大きく・重くなったが、その分走行安定性は向上しており高速ツアラーとしての性格がより強まった。
今回紹介するゴルフIVのGTIは標準車のデビューと共に登場。トピックとしては、GTIで初となるターボエンジンを搭載した点が挙げられる。1.8L DOHC20バルブターボの最高出力は150PSと控えめな数値ながら、21.4kg-mの最大トルクをわずか1750rpmで発生させる。
そして現行型ゴルフ V GTIは'05年5月に登場。キャッチコピーは"GTI is back."。レッドの樹脂モールに縁取られたグリルやパワフルな2.0L直4ターボエンジンなど、ホットハッチと呼ばれた頃のゴルフGTIの再来をイメージさせる装備・内外装が特徴だ。
ATの採用が最大のトピック
ゴルフIVの登場は'98年の8月。IIIに比べて内外装の質感を大幅に引き上げるとともに、走行安定性・居住性向上のためボディをさらに拡大。全幅は5ナンバーサイズをついに突破、全長も約4.2mまで伸び、質感・サイズともに「プレミアムハッチバック」にふさわしい存在感を得た。GTIは、まず5MTモデルがGLiやCLiといったベーシックグレードと同時にデビューした。
'99年2月にはゴルフGTIとしては初となるATモデルが登場、GTIの間口が大きく広がった。'01年7月にはティプトロニック5ATへと進化している。なお、現在流通しているGTIの半分以上はATモデルだ。

もはや「コンパクト」とは呼べないサイズ
初代ゴルフは全長が3725mm、全幅に至っては1610mmに過ぎなかったが、ゴルフIVのサイズは、全長4155 x全幅1735 x全高1455mm。20年あまりの間にずいぶん立派になったものだ。コンパクトと呼ぶには少々大きすぎるが、大人4人がゆったり座れるためにはこれくらいのボディは必要といえる。
組み立て精度はさすがのVWクオリティ
キャラクターラインは控えめに、ボディ全体のスタイルで個性と上質感をアピールする
ゴルフIVのエクステリアデザインが基本的にIIIを踏襲していることは見ての通り。2本桟のグリルバー中央部分にはVWマーク、起き上がりコブシを横に寝かしたような(?)形状のヘッドライトはマルチリフレクター式となり、内部にロー/ハイビーム、フォグランプ、ウインカーが埋め込まれる。IIIに比べると軽快・カジュアルという面では弱まったものの、落ち着きと高級感が引き立てられたフロントマスクだ。
横から見るとブーメラン形状のCピラーからリアフェンダーにかけてのパネルがとくにユニークだ。またキャラクターラインは入れずサイドビューをスッキリ見せていることも特徴。リア回りは、わずかにフレアしたフェンダーやボリュームを増したテールライト、ガラス面の大きなハッチゲートが重厚感を添えている。すっかりありふれた存在となったゴルフIVだが、よく見るとディテールはかなり凝っている。Cd値(空気抵抗係数)は0.31で、これは現行V(0.32)よりも良好な数値だ。「パネルとパネルの隙間は最大3.5mmに抑えた」(プレスリリース)という組み立て精度の高さはユーズドカーでも確認できる。
標準モデルとの外観上の差はごくわずか
上でも述べたように、IVのGTIは他グレードとの識別点が非常に少ない。いちばん分かりやすいのはBBS製の専用アルミだろう。これ以外には、リアのエンブレムやスモーク化されたダークテールレンズくらいだ(だがダークテールレンズはGTX/GLiにも採用されている)。あまりにも控えめなので、もうちょっとGTIらしい演出がほしいと思う人もいるかも知れない。
インテリアもハイクオリティ
インテリアの質感も相当なものだ。ただ初期モデルに採用されていたインパネ回りの素材は傷つきやすいようで、サンプルカーはグローブボックス回りのひっかき傷が少々目立っていた。GTIとGTXでは、インパネ中央部やシフトノブ、インナードアハンドルにブラックウッド(本木)素材が使われており、ちょっと豪華だ。
ドラポジもバッチリ決まる
GTIはファブリックのレカロシートが標準。背もたれ部分には「RECARO」の刺繍が。形状は取り立ててスポーティではないが、フィット感は良好。ランバーサポートの調整も可能だ。ステアリングはチルトだけでなくテレスコピック機能も備わるので、ドライビングポジションも決めやすい。
ラゲッジルームは余裕のサイズ
ホイールベースはIIIより40mm延長された2515mm。リアシートの居住性はまさにクラスのベンチマークと言えるもの。ただ、180cmを超える大柄な人が後部座席に収まると、ひざ回り・頭上空間ともに余裕はあまりない。
ゴルフIVのシートアレンジ。奥行きと総容量では現行Vに負けるが、荷室幅で比べるとIVのほうが10~20mmほど広い
ラゲッジは通常時で330L、分割可倒式の後席シートをダブルフォールディングすれば、1184Lもの空間ができあがる。荷室はフラットでサスペンションの張り出しも少なく、ステーションワゴンゴンもかくやと思わせる大容量だ。
安全装備も充実。ブレーキ制御によってLSD効果を発揮するEDS(エレクトロニックディファレンシャルロックシステム)やEDB(電子制御制動力配分システム)付ABS、サイドエアバッグなど、最新モデルにも劣らない安全デバイスを多数装備しており、安心感は高い。
乗り手を選ばぬ高性能
試乗したのは'98年式のGTI・5MT。ラインナップ中随一のスポーツグレード、さらに5MTとくれば少々身構えてしまうが、運転は拍子抜けするほどにイージーだ。クラッチは軽く、ミートポイントも分かりやすいので発進に気を遣うことは全くない。試乗車はシフトレバーの節度感がやや失われていたようだが、シフトケーブルの調整で直る可能性がある。
ブーストの立ち上がりは穏やかで、少々ラフなアクセル操作をしても過大なトルクステアに見舞われることはない。いざフルスロットルを与えるとターボエンジンらしい胸の空く加速が味わえるが、トップエンドはそれほど伸びないので、高回転まで無理して引っぱらずにテンポよくシフトアップしていったほうが楽しい。ブレーキのタッチや剛性感はさすがドイツ車と言えるもの。ボディ剛性も十分。サンプルカーは8年落ち・3.3万kmを後にしたクルマだったが、走りについてはまったく問題はないように感じた。
車名:VOLKSWAGEN GOLF GTI
型式:GF-1JAGU
寸法:全長4155mm x 全幅1735mm x 全高1455mm
ホイールベース:2515mm
車重:1270kg
駆動方式:FF(前輪駆動)
エンジン:1.8リッター 直列4気筒 DOHC 20バルブ ターボ
最高出力:150PS/5700rpm
最大トルク:21.4kg-m/1750rpm
トランスミッション:5MT
使用燃料/容量:プレミアムガソリン/55L
10・15モード燃費:11.8 km/L
タイヤ:205/55R16 91H
発売時期:1998年7月
当時の新車価格:285万円(消費税別)
試乗車スペック
初年度登録:1998年9月
販売価格:119.7万円 (消費税込み)
走行距離:33,000km
ボディカラー:サテンシルバー
試乗日:2006年9月
リコール対策済みかをまずチェック
まずリコール関係では、ブレーキ・バキュームホース、・エンジンコントロールユニット、燃料ポンプ取付けナットなどの不具合事例が報告されている。
また、窓落ちはIVでもしばしば発生するトラブル。費用的にも痛手だが、窓を閉められないとなると本当に困る(経験者ならおわかりだろうが…)。パワーウインドウがスムーズに作動しない、異音がする、といった症状がある場合はスタッフに聞いてみること。
また、GTIはターボ車ゆえ、オイル管理には気を配っておきたい。とくに都市部での走行が多い場合は、5000kmあるいは半年程度のスパンで交換したいところだ。これら以外にも初期モデルは経年劣化が原因のトラブルがそろそろ出てくるころ。検討の際には、整備履歴書を確認し、消耗品のメンテナンスがキチンとなされているかどうかチェックしよう。走行距離が短くても乗りっぱなしのクルマより、走行距離が多少伸びていてもしっかりメンテされたクルマのほうが遥かに良いコンディションを保っている場合の方が多い。
MT車の場合はギアの入り具合やシフトの節度感、クラッチの状態なども確認しておきたい。
IVのUカーは今が買い時
FFハッチバックの代名詞とも言えるVWゴルフ。その4代目は、これまで定評のあった質実な造りにプレミアム感も加え、日本市場でも大ヒット、その役目を十分に果たしてゴルフVへバトンタッチすることに成功した。Vの登場によりIVのUカーが大量に市場へ流れ込んでおり、選択肢は豊富で値段もこなれてきている。信頼性の面を考慮しても、今が絶好の買い時と言える。
IVの奥ゆかしさに魅力を感じるか否か
IIIではV6エンジンを積んだVR6、IVではGTXやR32といったGTIの上級モデルも登場して、GTIは特別なモデルではなくなったが、その分、地に降りてきたというか、より身近な存在になった。IVではATモデルも用意されたし(タマ数としてはATの方がずっと多い)、MTを選択したとしてもクラッチは軽く、ターボのトルク変動も穏やか。スポーツモデルにありがちなゴテゴテの装飾はなく、外観上は標準モデルとほとんど差がない。海外などの論評では"Hot Hatch"ならぬ"Warm Hacth"とあだ名されることもあるようだ。
だが逆に、この控えめな奥ゆかしさがゴルフIV GTIならではの魅力と捉えることもできる。飾らずてらわず、あくまでも自然体だが、中身は高性能…。「羊の皮をかぶった狼」的な高性能ではなくて、インテリジェンスが内包された高性能。そんな「違いが分かる人」のためのクルマ、それがゴルフIV GTIだ。
文・写真:DAYS・Kitajima


