Sクラスのクーペ版
メルセデス・ベンツが「Sクラス」をベースに作る最高級ラグジュアリークーペが「CLクラス」。ちょっと昔、メルセデスの大型クーペは「SEC」と呼ばれていたが、1996年から現在の名称に変わった。今回紹介するのは、CLとしては2代目にあたり、1999~2005年の6年間、生産されたモデルだ。グレードは、エンジンの違いによる「CL500」と「CL600」の2タイプ。前者は5リッターV8、後者は5.5リッターまたは5.8リッター(6リッターじゃないよ)V12が搭載される。超高速での移動を可能としたアウトバーンクルーザーだ。
ハイパフォーマンスモデルの「CL55 AMG」「CL65 AMG」は、それぞれ2001年9月、2002年3月にラインナップされた。2002年11月には全グレード、マイナーチェンジが実施され、フェイススリフトや装備の見直しが図られた。同時にCL600のエンジンは、ツインターボチャージャー付き5.5リッターV12エンジンに変更され、最高出力/最大トルクは一気に500馬力/81.6kgmまでにアップされた。

全長5m! メルセデスの威厳を持ち合わせた革新性
ボディサイズは全長5000×全幅1855×全高1400mm。当時クーペとしてはぶっちりの長さで、なおかつホイールベースもSクラスに比べると80mm 短いものの2885mmを確保している。優しい曲線と曲面で構成されたルーフラインと、1961年の「220SE」からモチーフを得た細身のCピラーは、キャビンをコンパクトに見せる効果があり、「クーペ」として大切な条件、流麗なプロポーション作りに一役買っている。また、上部にカットラインが入ったA ピラーは、一見、往年のハードトップ的な雰囲気さえ漂わせている。
「力ずくで作った重戦車」という雰囲気があった初代CLクラスは、2トンを上回る超ヘビー級だったが、この2代目は高張力スチール、アルミニウム、マグネシウム、樹脂などの素材を多用することで平均280kgの軽量化に成功している点も見逃せない。安全装備の引き上げによる重量増が40kgほどであることを差し引くと、初代比で320kgもの軽量化を実現していたわけだ。時代の流れと要請に沿った革新性という点では、現行型も含めて歴代ナンバーワンといっても過言ではない。当時メルセデスは「愛されるメルセデス」に向けて勇往邁進していたわけだが、その戦略はこのCLクラスの丸目ヘッドライトにも色濃く反映されている。
豪華装備満載! これ以上、何をお望み?
インテリアは、いろいろな機能・装備までを含めて、とにかく「贅沢!」の一言に尽きる。後席のヘッドレスト格納スイッチなど、「え、こんなものまで」という機能が目白押しだ。もちろん、その分、ボタンはいっぱい。なので操作する際に一瞬戸惑うことが予想される。でも、使用頻度に応じたレイアウトなので、すぐに慣れるだろうし、パワーシートの調整範囲が広いのも好感持てる。特に素晴らしいのが本革のクオリティ。これはメルセデス全車にいえることだが、経年劣化が極めて少なく、テストカーのように3万キロを超えていても、みすぼらしさは皆無。しかも、その状態が10年&10万kmまで保たれる、っていうのはさすがに大袈裟だけど、それぐらい耐久性が高い。
乗車定員は一応、4名
後席は一見、立派だが足元スペースの窮屈感は否めない。というか、後席はあくまで「イザ」という時の緊急用であり、それ以上に退屈になりがちなインテリアに余裕を与えるための「床の間的スペース」ととらえたほうがいい。そこを、ちょっとした物置スペースとして使うのがクーペ乗りの作法である。そしてもう1つ見逃せないのが後席の窓。ほかの多くのクーペは、ハメ殺しになっているのが一般的なのだが、CLクラスはちゃんと開く、しかも全開だ。「どうせ2人しか乗らないのだから、後席の窓なんてどーでもいいじゃん」という意見もあるだろうが、ここが開くと開かないのでは開放感・爽快感がまったく違うのだ。
乗り心地は意外にソフト。でも腰はある
かつて硬いともいわれてきたメルセデス特有の重厚な走りは薄らいでおり、軽いパワステに慣れ親しんだ日本人でも違和感なく運転できるソフトな味付けとなっている。念のために触れておくけど、このフワついた走りは、テストカーのダンパーが抜け気味だからではない。 1990年代後半からのメルセデス車は、ほぼ例外なく、ソフトな味付けになっているのだ。いまやアウディやBMWの走りのほうがずっと引き締まっているほどで、往年のメルセデスファンにとっては、良くも悪くも拍子抜けするところでもある。とはいえ、柔らかいのは段差を乗り越えたときなどの初期タッチだけで、讃岐うどんのような腰のあるクッションなのでボディの落ち着きはいい。高速コーナーでフラつくこともなく、終始安定。その巧みさは、「さすがベンツ」と唸ってしまう。
実はこのサスペンション、ABC(アクティブ・ボディ・コントロール)なるハイテクが仕込まれている。通常のスプリングとダンパーに、200気圧もの油圧によるアクティブ・コントロール・システムを組み込んだサスペンションで、大きな揺れ・振動が発生した時のみABC が介入する。逆に小さな揺れ・振動はスプリングとダンパーが受け持つ。このアクティブな制御とパッシブな制御を使い分けることによって、ハンドリング、乗り心地、燃費、パワーなどの要件を高度にバランスさせた、といっていたが、異論はない。加速も5リッターのV8エンジンを搭載しているだけに文句なしで、特に低回転域からモリモリと沸きあがるビッグトルクは、大排気量エンジンならではの魅力だ。また大柄ボディのわりに小回りが利くのも嬉しいところで、最小回転半径は5.3mと、ほぼトヨタ・カローラ並。
ついでに最上級の「CL600」にも少し触れておこう。最大の見所は5.8リッターV12エンジンに盛り込まれた「シリンダー・カットオフ・システム」。これは油温40~45度以上、回転数が3000rpm以下といった条件下で油圧システムがバルブロッカーアームを分離・固定させ、左側バンクのバルブ駆動と燃料供給を止めると同時に点火も止めるというもの。早い話、12気筒(5.8リッター)と、その半分の6気筒(2.9リッター)を走行条件に応じて切り替えるシステムだ。これによって初代比で最大20%の燃費向上を実現した。巨大なクルマがこうした技術革新で生き残っていくことは嬉しいことだし、健全だと思う。
車名 Mercedes-Benz CL500(2003モデル)
型式 GH-215375
寸法 全長5000mmx全幅1855mmx全高1400mm
ホイールベース 2885mm
車重 1830kg
駆動方式 FR
エンジン 5.0リッターV型8気筒SOHC
最高出力 306ps/5600rpm
最大トルク 46.9kg-m/2700rpm
トランスミッション 5AT
使用燃料/容量 プレミアムガソリン/88L
10・15モード燃費 7.1km/L
タイヤ 225/55R17
発売時期 1996年4月
当時の新車価格 1296万7500円(消費税抜き)
試乗車スペック
初年度登録 2003年5月
販売価格 539.8万円 (消費税込み) ※AP保証付(12ヶ月間、距離無制限)
走行距離 32,000km
ボディカラー アラバスターホワイト
試乗日 2007年4月
V12よりもV8が賢明
どうせ買うならV12! といきたいところだが、Uカー業界の評価によるとV12エンジンの信頼性はイマイチ、なんて声もチラホラ聞かれるのだから注意が必要だ。実際、アタリとハズレの固体差が大きいようで、「故障してウン十万円かかった」というケースも珍しくない。その点、V8エンジンは量産効果もあってか、故障発生率がぐっと低く、万一故障しても修理代は想定の範囲内で収まる。確かにV12の浮世離れしたトルク感は魅力だ。でも、購入後の維持費を考えれば、やはりV8のほうが賢明。ちなみにボディカラーの人気色はズバリ白である。
存在感は間違いなくSより強烈
S クラスがベースで大柄なボディにもかかわらず、実質的には2人乗り。SLクラスのように屋根が開くこともなければ、フェラーリやポルシェのように「スポーツ」するためのクルマでもない。それなのに新車時の価格(CL500)はざっと1300万円! いくら豪華装備が満載されているとはいえ、同じパワートレインを持つ「S500」は1140万円と160万円も安い。「なんでそんなに高いのか」「いったい誰が買うのか」と、CLクラスの値段設定に脱帽する人も少なくないはずだ。
走行距離は約3万2000km。平均耐用年数がケタ外れのメルセデス、しかも多額の投資で開発された超高級車だけに、その距離数はまだまだ序の口。最低限のメンテナンスさえ怠らなければ20万kmオーバーでもちゃんと走ってくれるはずだ
でも、その庶民的領域から大きく逸脱したところに、CLクラスの存在価値がある。言ってみれば“無駄を承知の上での贅沢”。損得勘定を考えたら絶対買えない、本格派の贅沢グルマなのである。とはいえ、それはあくまで新車時の話であって、Uカーとなれば事情は一変。どちらかといえばマイナーな存在ゆえに、U カー相場はガタ落ちで、結果、かなりお買い得な物件となる。相場は、3年落ちで新車時の半値以下となり、初期型なら300万円台後半から探せる。それでいてスリーポインテッドスターの威光は健在。個人的にはSクラスよりもビビってしまう、そんな危ういオーラもCLクラスの持ち味といえよう。
甘い逢瀬を演出してくれる最強のエスコートカー
そもそもクーペは、男女2人がプライベートタイムにドライブするための最適なクルマだ。それも4シーターではなく、かといって2シーターでもなく、2+2こそがふさわしい。それはヨーロッパの裕福な人々が(上流階級とはいわないまでも)、長年にわたって育んできた「クルマ文化」の中での、1つの決まりごとなのである。特にCLクラスのような大型の2+2クーペともなると、2人乗りで使っている限り、キャビンはかなりゆったりな感じになる。その適度な距離感は、男女の心に余裕を与えて自然と会話が弾むようになる、といった効果は確実にあると思われる。
これがキャビンの狭いスポーツカーだったりすると、2人の間が近すぎて逆に緊張感を呼んで、場がギクシャクしたりする。まぁ、男女の間というのは、離れていると近づきたくなり、あまり近すぎると離れたくなる。そんな心理も考えて、ラグジュアリー2+2クーペの伝統が継承されてきたのかは、筆者の知るところではないけれど、過去数百年にわたってヨーロッパの男たちが「エスコート」の文化を培ってきたのは確かだ。その偉大なノウハウが「現代のカボチャの馬車」たるラグジュアリークーペに反映されていないはずがない。しかもこれがベンツとあれば、誰もが知っているブランド力と安心感があるし、その上で希少なCLクラスであれば、遊びとしても最高。それが3年落ちで500万円そこそこ。費用対効果はズバ抜けて高い。
文・写真:DAYS・Kondo



