掲載日 : 2010年03月10日
1984 シトロエン 2CV 6 チャールストン
1948年にデビューしたフランスの「国民車」
シトロエン「2CV」は、低価格を実現すべく、ボディ構造や装備を徹底的に簡素化する一方、快適な室内や乗り心地を実現した、自動車史に残る傑作大衆車だ。
開発を1930年代から指揮したのは、当時シトロエンの副社長で、開発途中から社長となるピエール・ブーランジェ。農民や労働者が買える価格とするため、「こうもり傘に車輪を4つ付けたもの」をコンセプトにしたという話は有名だ。他にも「農道を走っても生卵が割れない乗り心地」といったユニークな開発テーマが盛り込まれた。
そのデザインは発売当初こそ、「みにくいアヒルの子」などと揶揄されたが、極めて合理的でユニークなもの。エンジンは空冷・水平対向2気筒OHV。当時すでに定評のあったBMWのボクサーエンジンに似たもので、これをフロントに搭載し、前輪駆動とした。また悪路での乗り心地を良くするため、きわめて独創的な前後関連式の4輪独立サスペンションが採用された。
なお「2CV」という車名は、デビュー当初の排気量がフランスの自動車課税基準で「2-馬力(deux-chevaux)クラス」に属したから。日本では英語風に「ツーシーブイ」もしくはフランス語風に「ドゥ シュヴォ」と呼ばれる。
販売期間は42年間。後半は602ccの「2CV 6」へ
1948年にデビューし、1990年に生産が終わるまでの42年間、一度もモデルチェンジしなかった2CVだが、エンジンの出力や排気量は途中で変更されている。375ccで始まった排気量は、1953年に425ccとなり、さらに1960年代後半には602ccの「2CV 6」が登場。従来型の小排気量版も新設計の435cc版となり「2CV 4」の名で併売されたが、1978年からは2CV 6のみとなった。
1980年にはボルドーレッドとブラックの2トーンで塗り分けた「2CV 6 チャールストン」を限定発売し、翌年にカタログモデル化。この頃から日本への正規輸入も本格化するが、並行輸入車も数多く上陸した。
そして1988年にフランス本国で生産を終了、続いてポルトガル工場でも1990年に生産を終えた。累計生産台数は約387万台、派生モデルを加えると初代MINI(540万台)に匹敵する500万台以上と言われる。大衆車ゆえ、すでに現存台数は少ないが、今もなおシトロエンにとっては同時代の上級車DSシリーズと共にアイコン的な存在となっている。
なお、日本では宮崎駿監督のアニメーション映画 『ルパン三世 カリオストロの城』 」(1979年)に登場するクルマとしても有名。その走行シーンでは、簡便なボディ構造、前輪駆動による走行特性、ストロークの長いサスペンションといった特徴を、やや誇張しながらも正確に描いているので、ぜひチェックを。(2010.2)

合理的設計から生まれたカボチャの馬車
「みにくいアヒルの子」、「乳母車」「ブリキの缶詰」などなど、デビュー当時の評判は散々だったという2CV。確かにそのスタイリングは、戦後の混乱期に生まれた他の小型車と比べても、そうとうに奇妙だ。
ボディ上屋はトタン板のようなボディパネルと平面ガラスで構成されるが、横から見ると丸くアーチを描き、まさに「かぼちゃの馬車」という感じだ。前後のフェンダーは馬車のようにボディから飛び出し、そこに収められるタイヤも馬車の車輪のように、125幅の15インチ径という極細・大径サイズとなっている。またカニの目ような丸型ヘッドライトも、2CVのトレードマーク。1970年代には角型へ変更されたが不評であったため、「スペシャル」や「チャールストン」といったグレードで復活したものだ。
そこかしこに見られる知恵と工夫
しかし2CVの開発者らは、何も奇をてらってこうしたデザインを採用したのではなく、すべては生産コストの低減や軽量化を図るため。しかし実車をしげしげと観察してみると、ドアの立て付けなど各部の「肝心な部分」には、ほとんどガタがないことに驚く。試乗車は約26年落ち、走行10万km少々、そして失礼ながらサビだらけというコンディションだが、そこには言ってみれば、家に昔からあるカナヅチや手バサミのような、高級じゃないけど作りが良くて壊れない、みたいな、まさに「道具感」がある。いずれにしても工業デザインや金属加工に詳しい人が見れば、思わず唸ってしまう様々な発見があるはずだ。
簡素簡便なインテリア。シート高も天井も高い
試乗車は普段から実用としているので、(再びオーナーには失礼ながら)雑然としており、非オリジナルの部分もあるが、もともと生活車として設計されたクルマだから、これが本来の姿だろう。
さて、シンプルさが身上のクルマゆえ、メーターなどは必要最低限。基本的には速度計、燃料計、距離計、電圧計だけだ。空冷エンジンなので、水温計はない。
もちろん、エアコンやクーラーなどというものもない。代わりにフロントガラスの下には、軍用車のジープと同じような開閉式のフラップがあり、直接走行風を導入できる。
風通しは最高
屋根は全車キャンバストップ。これは軽量&低重心化、低コスト、積載性、換気性、走行中のこもり音防止(ノイズの発散)を考えたものだ。このキャンバストップは、まずサンルーフのように頭上だけ開く。この状態なら運転中に雨が降っても閉められるわけだ。全開にする場合は、そこからクルクルとキャンバストップを丸めて、やはりストラップで留める。
横の窓はパワーウインドウどころか巻き上げ式ですらなく、上下二分割で下側だけ開く。ブリキ製の留め金で半開きにできるほか(適度に走行風が入り、雨の侵入も多少防ぐ)、上に180度反転して全開にできる。
文字通り「フワンフワン」のシート
シートはデビュー当時から同じ構造で、パイプフレームにゴム製のバンドで布を張った、いわゆるハンモックシート。座り心地は昔のスプリングマットレスみたいにフワンフワンで、小さな子供ならトランポリンが出来そう。
ただし耐久性には難があり、特に運転席の座面クッションが数年で落ち込んでしまうのは、2CVでは定番中の定番トラブル。オーナーの谷川氏は適当にソファクッションを置いてしのいでおり、人によっては座面の下に電話帳などを入れるという。なお、シートは前後共に簡単に脱着可能で、戸外でベンチとしても使える。
試乗したのはスタッフ所有の26年・10万km走行車
今回は番外編ということで、試乗したのはオートプラネット名古屋のセールスマネージャーである谷川氏の個人所有車。何と実質的にワンオーナーで、走行距離はまさにメーターが一周した直後の10万と200kmだ。こと内外装に関しては、『刑事コロンボ』のプジョー403を彷彿とさせるコンディションだが、メカニカル面では車検を切ったことすらないという素晴らしい「動態」にある。
さっそくステアリングコラムにキーを差して回すと、「グググググ、ブルンブルン!」と一発で始動。2CVはキャブレター式だが、冬でもチョーク無しですぐに安定したアイドリングを始める。なお、バッテリーが上がった場合に備えて、クランク棒による始動も可能だが、谷川氏によると使うことはほとんどないという。
4MTの操作は、押したり引いたり
試乗担当者が2CVに乗るのは今回が初めて。その4速MTは、独特の操作方法で知られるため、まずは谷川氏にレクチャーしてもらった。
その操作方法とは、ダッシュボードから水平に突き出したシフトレバーを、左右にひねったり、押したり、引いたりして行うもの。まずは、ニュートラルにし(シフトレバーの中間に印がある)、
・左にひねり、手前に引けば1速
・ニュートラルに戻し、そのまま奧に押し込めば2速
・2速から手前に引けば3速
・ニュートラルに戻し、右にひねって奧に押し込むと4速
・ニュートラルから左にひねり、奧に押し込むとリバース
となる。
文字にすると難しいが、ギア位置はスピードメーターの下にイラストで描いてあるので、すぐに覚えられる。で、実際に運転してみると、これが実にイージー。何と2CVは1948年のデビュー当時からシンクロ付の4MTだったようで、初心者でもまったくギア鳴りさせず、スムーズにシフトできる。個人的にはクラシックMINIより簡単・確実に思えた。
予想を上回る力強い走り
排気量602ccの空冷フラットツインは29psと4kgmを発揮。車重は590kgと軽量で(最近の軽自動車の3分の2くらい)、発進からけっこう力強い。その1速から余裕をもって2速にシフトアップ。スピードのノリは予想以上に良く、そのエンジン形式同様、旧い2気筒のオートバイみたいに軽快かつ長閑(のどか)に加速する。4輪車で言えば、2気筒・550cc時代の軽自動車によく似ている・・・・・・、と言っても若い人にはイメージしにくいだろうが。
いずれにしても、2CVは非力だ非力だ、とさんざん吹き込まれてきたような気がするが、あれは一体何だったんだろうか? 後で知ったのだが、どうやら非力だという2CVはもっぱら425cc時代のものを指すらしい。
実際、今回の試乗でも、2名乗車であっという間に法定速度を超えそうなくらい活発に走る。谷川氏によると最高速はメーター読み120km/h。うるさいのさえ気にしなければ、そのまま巡航できるという。そういえば、かつて2CVを3台乗り継いだという漫画家の佃 公彦氏(中日新聞などで「ほのぼの君」を連載)も、
「北陸道はガソリンの続くかぎりフラットアウト(約120km/h)で走り抜け、帰宅時アイドリングの息の乱れはまったくありません」
と書いている(「ひと・クルマ・30 CG」二玄社、1992年)。要するに動力性能は十分だ。
意外なほど安心感のある走り
谷川氏の運転で乗り心地もチェックしてみた。試乗時間は短かったが、その乗り心地は、確かに伝説通り。サスペンションがこれだけ柔らくてストロークが大きいと、フワフワした乗り心地を想像してしまうが、実際には不思議なほどフラットで安定した姿勢を保つ。
また、何となくボディ外観こそ頼りないが、フロア自体は異様にガシッとしていて、走っている間も妙な安心感がある。またこの年式ではフロントがディスク化されているブレーキもよく効くし、ノンパワーのステアリングも意外に軽い。そしてコーナーでは、はたから見ると可笑しいくらいロールするが、実際には4つのタイヤがまるでバッタみたいに足を伸ばして路面を捉え続けるし、重心自体も極端に低く(アルミ製フラットツインエンジンの搭載位置を見よ)、パワーもそんなにないので、不安はまったくない。
遮音性はゼロに近く、速度が上がると会話は難しくなるが、なぜか「うるさく」はない。要するこのあたりも空冷2気筒のバイク的だ。「パタパタパタパタ」という旧いBMW製オートバイみたいな音を聞いていると、谷川氏の「2CVに乗ると元気になる」という言葉にも納得できる。
車名 Citroen 2CV 6 Charleston (1984年モデル)
形式 E-AZA6
寸法 全長3830mm×全幅1480mm×全高1600mm
ホイールベース 2400mm
車重 590kg
駆動方式 前輪駆動(FF)
エンジン 空冷 602cc 水平対向2気筒 OHV
最高出力 29ps(21kW)/5750rpm
最大トルク 4.0kgm (39Nm)/3500rpm
トランスミッション 4MT
使用燃料/容量 プレミアムガソリン / 25L
10・15モード燃費 -km/L
タイヤ 125-15 (試乗車は135/SR15)
最小回転半径 5.4m
発売時期 1948年(2CV)、1980年(2CV6 チャールストン)
当時の新車価格 200万5000円(1983年の車両本体価格)
試乗車スペック
初年度登録 1984年
試乗日 2010年3月
販売価格 -円
走行距離 10万0200km
ボディカラー ボルドー/ブラック
備考 オートプラネット名古屋スタッフ 個人所有車
優れた実用性と経済性。ただし夏はかなり暑い(らしい)
今回2CVに試乗して思ったのは、本文にもある通り「意外に普通に乗れる」ということ。動力性能も十分で、何より乗って楽しく、ストレスがない。開発コンセプト通り、誰でも気軽に乗れるクルマだった。
また構造がシンプルなので、割と経済的に維持できることも長所だと思う。谷川氏によるとこの26年間で10万kmを走破したにも関わらず、エンジンはオーバーホールなし。実際、その空冷フラットツインは絶好調で、その必要はまったく感じられなかった(チューニングや修理が目的でもない限り、調子がいいエンジンをわざわざOHすることはない。かえって調子を崩す原因になる)。キャブレターはもちろんOH済みで、電装系も信頼性の高いものに交換してあったが、ほとんど手は掛からないようだ。
ただしエアコンどころか、ベンチレーターも弱いのが、現代のクルマとの大きな違いか。夏でも走れば風が入ってくるが、渋滞が多い都市部では厳しいはずで、「うちわ」は必須。日常的に足として乗っているという谷川氏も、夏場はあまり乗らないという。
また真冬は、空冷エンジンであることからヒーターの効きが弱めという(ヒーターの熱源として使いやすい冷却水がなく、排気マニフォールド付近の暖気を引き込む)。また雨天では窓の曇りも激しいはずだ。このあたりは、あくまで開発コンセプトが「4つの車輪にこうもり傘を付けたもの」だったということを思い出したい。
「新車の2CV」が欲しい
「2CVが欲しい!」となった場合、具体的にはどうすればいいのだろうか。オートプラネット名古屋では、クラシックカー専門店のダイア自動車(名古屋市中区新栄) http://daiyaauto.co.jp/ と提携してヴィンテージカーも販売しているが、2CVともなると販売車両として並ぶことはまずない。とはいえ興味のある方は、2CVのオーナーでヴィンテージカー全般に詳しいオートプラネット名古屋の谷川氏に相談してみるといいだろう。
それにしても、2CVに乗ってみると「クルマって、これくらいでいいんだよな」と思えてくる。最近のクルマは、限りなく完璧な安全性、限りなく高い性能を求め、あるいは求められた結果、何かとんでもなく過剰なものになっていないだろうか。「新車の2CV」みたいなクルマが欲しくなる、今回の試乗であった。
Text:丹羽 圭(Kei Niwa), DAYS
Photo:DAYS






