掲載日 : 2010年04月27日
2004 アウディ TT 3.2 クワトロ Sライン
6速DSGの先駆者
初代アウディ「TT(ティーティー)」は1998年にデビューした小型スポーツモデル。ベースは当時の4代目VWゴルフや初代アウディA3だが、そのスタイリングは極めて斬新で、同クラスのスポーツカーとしては異例の大ヒット車となった。
日本では1999年に1.8リッター直4ターボ(225ps、28.6kgm)の「1.8T クワトロ」(左ハンドル・6MT)から発売。2001年には180ps、24.0kgmにデチューンしたFF(5MT)を導入し、2002年からは右ハンドル・6ATを追加。日本でのこのAT仕様が大ヒットの立役者となった。
今回試乗したのは、2003年9月に発売された「3.2 クワトロ Sライン」。3.2リッターV6(250ps、32.6kgm)に、市販車初(日本市場の場合)の6速「DSG」を組み合わせたモデルだ。
DSG(VW)=Sトロニック(アウディ)=DCT
DSG(ダイレクト・シフト・ギアボックス)とは、2つのクラッチ機構を交互に断続させることによって、ギア式でありながらスムーズな変速を行う画期的な変速機。同時にマニュアル・トランスミッション並みの高い伝達効率(=燃費の良さ)も実現している。なお、後にアウディは、VW車のDSGと分ける意味で、「Sトロニック」と独自の商標で呼ぶようになる。
DSGの肝であるツインクラッチの基本パテントは、ボルグ・ワーナー社が保有しており、同様の変速機はVWグループの他、ゲトラク社(フォード、ボルボ、三菱、BMWなどに供給)、ZF社(ポルシェに供給)、そして日産系の愛知機械(GT-R用)も生産しており、各ブランドで独自の名称を持つ。以下では、一般名称として「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」と表記する。

今もなお斬新でカッコいい
デビューから10年以上経つ初代TTだが、そのスタイリングは相変わらず斬新で、カッコいい。2代目は確かに正統派のスポーツカールックになったが、個性的という点では宇宙船のような初代がそれを上回る。
ボディサイズは全長4060mm×全幅1765mm×全高1340mmとコンパクト。その数字はホンダの新型ハイブリッドカー「CR-Z」(4080mm×1740mm、全高1395mm)にけっこう近い。
3.2クワトロは全車「Sライン」仕様
3.2 クワトロは全車、1.8Tにも設定のあった「Sライン(S-line)」仕様となり、フロントには魚のエラのようなスリット付きのアンダースポイラーが装着される。またリアにはボディ同色の標準スポイラーに代えて、1970~80年代のポルシェ911 カレラ風「ウイング」が装着される。2代目TTのリアウイングは電動格納式で普段はボディの下に隠れているが、初代のものはすべて固定式だ。
黒い樹脂とアルミ製パーツの世界
天地の狭い窓、黒の樹脂とレザー、アルミ製パーツの鈍い輝き。それらに囲まれた心地いい守られ感は、初代TTならではの世界。見る度に、これぞ「クルマ好きのプロの仕事だ」と思わせられる、素晴らしいインテリアだ。
ちなみにこれが2代目TTになると、見違えるように洗練された一方、この初代が持つコンセプトカーのような手作り感は薄まってしまう。もちろん進歩した部分も多いが、初代の方がよりマニアックで、デザイン重視だったと言える。
7年前のDCTは、まったく問題なかった
試乗したのは初年度登録が2004年6月、つまり約6年落ちの3.2 クワトロ。走行距離は、まだ2万4600kmだ。新車当時は562万円もしたモデルだが、当車両の販売価格はその3分の1の189万円。ついに6速DSGの3.2クワトロもここまで来たか、と「初代TT好き」としては、なかなか感慨深い。
そんな話はさておき、さっそく試乗。すでに開発時から7年も経つ初期DSGのこと、多少はギクシャクしたり、あるいはシフトショックやジャダー(クラッチ等に起因する振動)が出たりする可能性はあるなあ、と内心覚悟していたのだが、試乗車の場合、結論から言うとそれはまったくなかった。トルコンATでもMTでも、これだけ年数が経っていると多少のヤレ感が出てくるものだが、DCTの耐久性は同等以上と言ってよさそうだ。
V6エンジンとクワトロによるメカっぽい走り
一方、当時のゴルフR32などと基本は同じ3.2リッター狭角V6は、非常にトルクフルで扱いやすいが、回転上昇および回転落ちは割と穏やか。同じエンジンを継承する2代目TTの3.2 クワトロ(ボディ前半のアルミ化によって車重は70kgほど軽い)では、もっとシャープだった記憶があるのだが。また最新の直噴ターボ+DCTに比べても、「最先端パワートレイン」感はやや薄めだ。
とはいえ、250psのパワー、フルタイム4WDのクワトロ、そして6速DSGと、メカメカしいスペックは十分に実感できるし、トラクション能力も完璧。ダッシュする時など、後輪駆動のように一瞬リアタイヤがギュッと踏ん張る感じがあって嬉しい。ポルシェ・ボクスターやBMW・Z4みたいに、バランスの良さで走る、というより、「メカニズムの力で走る」感が強く、そこがアウディらしいと言えば、らしい。
また、スポーツカーとしては乗り心地も十分に快適で、助手席から文句が出ることは一切ないと思う。また最小回転半径は3代目プリウス並みの5.2メートルと、小回りもよく効く。
車名 Audi TT 3.2 quattro S-line (2004年式)
形式 GH-8NBHEF
寸法 全長4060mm×全幅1765mm×全高1340mm
ホイールベース 2430mm
車重 1550kg
駆動方式 電子制御フルタイム4WD
エンジン 3188cc V型6気筒DOHC・4バルブ
最高出力 250ps(184kW)/6300rpm
最大トルク 32.6kgm (320Nm)/2800-3200rpm
トランスミッション 6速DCT
使用燃料/容量 プレミアムガソリン / 62L
10・15モード燃費 9.4km/L
タイヤ 225/40R18
最小回転半径 5.2m
発売時期 2003年9月
当時の新車価格 561万7500円(2004年4月モデル、消費税込み)
試乗車スペック
初年度登録 2004年6月
試乗日 2010年4月
販売価格 189万円
走行距離 2万4600km
ボディカラー シルバーレイク メタリック
備考 社外HDDナビ・TV、ETC付
AIS評価点 -
メカニズムというより、デザインが魅力
Uカー試乗記で初代TTをとりあげるのは、すでに3回目。今回はその3.2クワトロ、6速DCTに乗ったわけだが、思ったのはやはり今までと同じで、つまりオシャレな街乗りクーペとしてなら初代TT、スポーツカーらしさや高性能感なら2代目TT、ということだ。どちらかがイイという話ではなく、この2世代のモデルを乗り比べれば、多くの人がそう感じると思う。その後にどちらを選ぶかは、デザインを含めた完全に好みの問題だ。
こう言うと身も蓋もないが、すでに2代目TT(日本仕様は全車6速DCT)がUカーでも手に入る現在、「初代TT 3.2 クワトロ」の魅力とは、そのメカニズムではなく、「初代TTであること」、つまりデザインに尽きる、と思う。「ならば、FFの1.8Tでもいいのか」と問われれば、まさにそうだ、と初代TT好きとしては言いたい。
予算200万円未満の初代TTは、もちろん買い!
というわけで、その意味では今回試乗した3.2クワトロもいいけど、その横に展示されていた129万円の2003年式 TT クーペ 1.8T(FF・5MT)もいいよね、と思ってしまった。走行5万4500kmの現状販売(つまり保証なし)だが、ワンオーナーのきれいなクルマで、正直これも絶対アリだなあ、と。
とは言うものの、それにわずか60万円足せば、今回の3.2 クワトロも買えてしまう。馬力は180psから1.4倍の250psへ、トルクは24.0kgmから1.3倍の32.6kgmへ、変速機は5MTから6速DCTとなり、ヘッドライトはキセノンになり、1年保証もつく。でもってリアサスはダブルウイッシュボーンへ、リアディスクブレーキもベンチレーテッドへ格上げ・・・・・・と考えてゆくと、3.2 クワトロのお買い得感がどんどん増してゆく。ついでに言えば燃費だって、3.2クワトロはDCTの威力で10・15モード:9.4km/Lと、3リッタークラスの4WD車としては優秀だ。やっぱ、3.2 クワトロかも。
いずれにしても確かなことは、今や全天候型スポーツカーの傑作、初代TT クーペのグッドコンディション車が200万円未満で買えるということ。初代TTが好きな人、あるいはスポーティな3ドアハッチバックが好きな人には、ぜひぜひ衝動買いして欲しい。このジャンルのUカーでは、今現在ベストバリューの一台なのは間違いない。
Text:丹羽 圭(Kei Niwa), DAYS
Photo:DAYS








