掲載日 : 2010年10月29日
2008 フィアット 500 1.4 16V ラウンジ
FFで甦ったイタリアの名車
2007年7月にイタリア本国でデビューした「フィアット500」は、1950年代から70年代にかけて生産された名車の現代版。先代を彷彿とさせる愛らしいデザインによって、イタリア本国をはじめ、世界中で人気を集めているほか、2008年度の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなどハードウエアへの評価も高い。なお往年の500(イタリア語読みでチンクエチェント=Cinquecento)はリアエンジン・後輪駆動の「RR」だったが、新型はFF(フロントエンジン・前輪駆動)となる。生産はポーランドのティヒ工場で行なわれている。
2008年春に日本上陸。1.2と1.4で展開
新型フィアット500は、日本では2008年2月に正式発表、3月に発売された。初期導入車は1気筒あたり2バルブの1.2リッターSOHCエンジン(69ps、10.4kgm)を搭載した「1.2 8V ラウンジ」。「デュアロジック」と呼ばれる5速セミATやガラスルーフを備えたモデルで、価格は225万円だった。
その2ヵ月後には、1気筒あたり4バルブの1.4リッターDOHCエンジン(100ps、13.4kgm)を搭載した「1.4 16V ポップ」を、6月にはガラスルーフ等を備えた上級グレード「1.4 16V ラウンジ」を追加。価格はそれぞれ222万円、250万円だった。さらに10月にはパドルシフト、16インチアルミホイール、ルーフスポイラー等を備えた「1.4 16V スポーツ」を追加している。
2010年には1.2にアイドリングストップ機能を採用
2009年2月には、14インチスチールホイール仕様とするなど装備を簡素化したエントリーグレード「1.2 8V ポップ」(195万円)を新設定。4月にはその対極とも言える、1.4リッター直4ターボエンジン(135ps、18.4kgm)と5MTを搭載した「アバルト 500」(295万円)も登場した。アバルトも当初は右ハンドルだったが、後に左ハンドルも追加されている。
2009年7月には、キャンバストップのオープンモデル「500C」も仲間入り。価格は239万円からとされた。この後しばらくは、特別仕様車を矢継ぎ早に投入する時期が続いた(詳細は下記を参照)。
2010年8月には、日本仕様ではアバルト以外で初の5MTとなる「1.2 スポーツ」を追加。同時に1.2リッター全車にアイドリングストップ機能「スタート&ストップシステム」を標準装備し、10・15モード燃費を従来の15.6km/Lから、17.6km/L(ラウンジ)~19.2km/L(ポップ)に向上させたほか、グレード名称の「8V」「16V」という表記を一斉に省略している。(2010。10)

■特別仕様車
・2008年3月 「1.2 8V ラウンジ SS(スペシャル シリーズ)」
発売記念車。メッキパーツや快適装備を充実。限定200台
・2008年10月 「1.4 16V スポーツ SS」
16インチアルミ等を装備
・2008年10月 「1.4 16V ラウンジ トロピカルイエロー」
外装色「トロピカルイエロー」、限定100台
・2009年3月 「バイ ディーゼル(by DIESEL)」(ベース:1.4 16V)
専用色「ディーゼルグリーン」など専用内外装を採用、限定150台
・2009年7月 「1.2 8V ポップ バニライエロー」
専用色「バニライエロー」等を採用、限定150台
・2009年7月 「500C 1.4 16V ラウンジ SS」
本革シート、メッキパーツ等を装備
・2009年9月 「ピンク!」(ベース:1.2 8V)
専用色「ローザローザ」等を採用、限定50台
・2009年11月 「ハッピー!」(ベース:1.2 8V & 1.4 16V)
専用色「ビンテージグリーン」、ブラウンレザー内装等を採用。限定220台
・2010年4月 「500C バイ ディーゼル(by DIESEL)」(ベース:1.2 8V)
専用の内外装を採用、限定100台
・2010年6月 「アッズーラ(Azzurra)」(ベース 1.2 8V ラウンジ)
専用色「ブルーヴォラーレ」を採用。限定300台
・2010年6月 「500C ヴィンテージ」(ベース 1.2 8V ラウンジ)
外装色「チャチャチャアズール+アイボリーソフトトップ」限定100台
外装色「テックハウスグレー+レッドソフトトップ」限定50台
・2010年9月 「アランチャ(Arancia)」(ベース:1.2 8V ポップ)
専用色「ビタミニックオレンジ」、15インチアルミ等を採用。限定300台
愛くるしいまでに魅力的
全体に丸みを帯びたデザインが「愛くるしい」フィアット500。細かいパーツもよく吟味され、メッキパーツを随所に配するなど質感も高い。欧州では最小サイズのコンパクトカーだが、そこはやはり名車フィアット500の名を受け継ぐクルマ。人々をガッカリさせるようなものには絶対にしない! というフィアット社の意気込みがうかがえる。
全長が約3.5メートル、全幅が約1.6メートルというボディサイズは、全幅を除けば、日本の軽自動車と大差ない。ただし最小回転半径は「1.2」が4.7メートルなのに対して、「1.4」では5.6メートルとミドルクラス車並みになり、小回りを少なからず苦手とする。
なお、購入して初めて気付く人も多いだろうが、このフィアット500、スモールランプ(ポジションランプ)だけを点灯することは出来ない。ヘッドライトオフ、オン、さらにフォグを点灯という3段階となる。
現代的な手法で、往年の名車を再現
内装もイタリアンデザインの真骨頂。シンプルで暖かみがあり、それでいて安っぽさは微塵もない。ボディカラーと同色の樹脂パネルで、先代500のような鉄板むきだし風のダッシュボードを再現する手法は、イタリア車の十八番だ。さらに大型の一眼メーター内に、回転計や情報ディスプレイをギュウギュウに詰め込んで、やはり往年の500みたいな「速度計だけ」みたいなシンプルな眺めも再現している。またシートも秀逸で、デザインもいいし、座り心地も良い。シートだけを見ても、新型フィアット500がいわゆる普通のコンパクトカーとは一線を画すクルマであることが分かる。
またこの小さなボディで、エアバッグはドライバーのニー(膝)保護用を含む計7個を標準装備し、発売当時のユーロNCAPでは、最高ランクの5つ星を獲得している。ついでに言えば、ESP(横滑り防止装置)も全車標準だ。こういった安全性の高さも、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した理由の一つだろう。
変速機はおなじみのデュアロジック(セミAT)
デビュー当時の試乗会で乗ったのは「1.2 8V ラウンジ」だったが、今回試乗したのは2008年式の「1.4 16V ラウンジ」。当時の最上級グレードで、新車価格が250万円だったものだ。試乗車そのものは初年度登録から約2年経ち、走行距離2万2900kmのワンオーナー車で、販売価格は183万円。新車保証もまだ1年残っている。
変速機はフィアット・パンダ等でおなじみの「デュアロジック」と呼ばれる5速セミAT。その仕組みは、基本的にはアルファロメオの「セレスピード」などと同じだ。他社のセミATには、電子制御クラッチで擬似的にクリープを付けたものもあるが、フィアット・アルファロメオ系のものはクリープレスとなり、ブレーキから足を浮かせるだけでは動き出さない。トルコンATから乗り換えた直後は面食らうかもしれないが、すぐに慣れるので心配は不要だ。坂道発進もヒルホルダーを上手に利用すれば、スムーズに行える。
街中では1.2で十分。郊外では1.4の100psが物を言う
変速モードを「A(オート)」にしておけば、基本的にはAT車のようにイージードライブできる。シフトアップ時には、セミATに付きものの「息つぎ」があるが、これもアクセルを一瞬抜くなどのコツを覚えれば大丈夫。慣れてくるとダイレクトなパワーの伝わり方が楽しく、またクルマ側のリズムに合わせた走りは、自然と安全運転やエコ運転にもなる。この点は1.2リッター車も同様で、むしろ街中では69psのパワーをフルに使った、小気味良い走りが楽しい。
一方、100psを誇る1.4リッターは、どちらかと言えば高回転型のスポーツユニット。アクセルを深く踏み込めば、「なるほど確かに100馬力」と思わせる元気の良さがあり、古典的なFFホットハッチ風でもある。もちろん、ターボで135psをひねりだすアバルト500のような弾けっぷりはないが、普段はゆったり、いざとなればハイペース、といった二通りの走り方が選べる。
地に足の付いた走りは、一昔前のイタ車とは異なり、最新の欧州スタンダードだ。乗り味に安っぽさは全くなく、むしろ上質で、操縦安定性も十分、快適性も十分。その点では、単なる量産コンパクトカーではなく、プレミアムなコンパクトカーだ。日本上陸前には、「欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞は、いくら何でも出来すぎでは?」と思ったものだが、乗ってみると「なるほど」と納得できる。ただ、1.2の場合は完璧に安定サイドだが、100psの1.4では多少アクセル操作に気遣いが要る。
なお試乗車の動的コンディションは、年月も走行距離も浅いため、当然ながら良好。試乗し始めた当初の冷間時には、パワートレインや足まわりに硬さが感じられたが、しばらく走っているうちに徐々にスムーズに走るようになった。
車名 Fiat 500 1.4 16V Lounge(2008年式)
形式 ABA-31214
寸法 全長3545mm×全幅1625mm×全高1515mm
ホイールベース 2300mm
車重 1050kg
駆動方式 前輪駆動(FF)
エンジン 1368cc 直列4気筒DOHC・4バルブ
最高出力 100ps(74kW)/6000rpm
最大トルク 13.4kgm (131Nm)/4250rpm
トランスミッション 5速セミAT(デュアロジック)
使用燃料/容量 プレミアムガソリン / 35L
10・15モード燃費 13.8km/L
タイヤ 185/55R15
最小回転半径 5.6m
発売時期 2008年3月(フィアット500)、同年6月(1.4 16V スポーツ)
当時の新車価格 250万円(消費税含む)
試乗車スペック
初年度登録 2008年9月
試乗日 2010年10月
販売価格 183万円(消費税込み)
走行距離 2万2900km
ボディカラー ジャイブ・ブルー
備考 ワンオーナー、ETC付
AIS評価点 4.5点
限定車も含めてボディカラーは20色近い
フィアット500を選ぶ過程で最大の楽しみは、何と言ってもボディカラーだろう。日本仕様は白「ボサノバホワイト」と今回試乗した紺色の「ジャイブ ブルー」など計6色でスタートし、その後も限定車でピンク色の「ローザローザ」や「バニライエロー」などが加わったほか、カタログモデルでもカラーの入れ替えが行われており、全部合わせれば、おそらくすでに20色近くが導入されたはず。フィアット500の場合、ボディカラー選びはインテリアカラー選びでもあるので、こだわりたいところ。
またルーフにも計4種類の仕様がある。「ポップ」「スポーツ」「アバルト」の通常ルーフ、「ラウンジ」の固定式ガラスルーフ、一部限定車の電動サンルーフ(アウタースライディング式)、そして「500C」の電動キャンバストップだ。このあたりも純粋に好みだが、あえて言えば、ルックスが引き締まり、さらにワックス掛けも簡単な?ガラスルーフ仕様がおすすめ。またオープンカーの雰囲気や気持ちよさを手軽に味わえる500Cも楽しい選択だ。キャンバストップでも雨漏り等を心配する必要はまったくない。
1.2でも十分だが、余裕を求めれば1.4かアバルト
パワートレインに関しては、街乗りがメインなら、小回りもよく効く「1.2」で十分。ただし高速道路で追越車線をストレスなく走るなら、最高速が1.2(69ps)の160km/hに対して182km/hまで伸びる「1.4」がいい。また1.4ならブレーキが4輪ディスク(1.2は後輪がドラム)となるほか、パドルシフト付の「1.4 スポーツ」もある。
動力性能で言えば、アバルト500もおすすめだ。5MTのみだが(アバルト500Cは5速セミAT)、乗り味は過激というほどではなく、快適性も犠牲になっていない。ボーイズレーサー的なルックスは所有感も満たしてくれるので、MT操作が苦でなければ、長く楽しめるはず。
大人や玄人が乗るに耐える
以上、細々書いてきたが、総じて言えるのは、フィアット500が多くの人が想像する以上に、完成度が高く、真面目なクルマということだ。デザインだけが魅力のコンパクトカーと思ったら大間違いで、大人や玄人が乗るに耐える作りがその隠れた魅力だ。
さらにフィアット500の場合には、そこに作り手の情熱が加わり、また話題性やら、フィアット社の威信やら、近代的な生産システムやらも加わって、開発コストや手間暇のしっかり掛かったクルマになっている。さらにイタリア車全般に言えることだが、やはり作り手のクルマに対する「愛」から生まれている点が、義務的なモデルチェンジやマーケティングから生まれたクルマとの決定的な違いと言えるだろう。
Text:丹羽 圭(Kei Niwa), DAYS
Photo:DAYS










