掲載日 : 2011年04月20日
2009 アバルト グランデプント
グランデプントのアバルト版
「アバルト グランデプント」は、フィアットのコンパクトカー「グランデプント」をベースに、フィアット傘下の「アバルト」が仕立てた高性能モデル。アバルトとは1950年代から60年代にかけてモータースポーツで活躍した伝説のブランドで、その後はフィアットグループのモータースポーツ部門として、数々のラリーカーやレーシングカーを開発。長いブランクを経て、2007年に復活していた。
日本では新生アバルトの第一弾として、2009年2月に発売された。仕様は左ハンドル、6MT、3ドアのみとマニアックで、ボディカラーもビアンコ(白)に赤ストライプというアバルトらしいもの。新車価格はその2ヵ月後に発売されたアバルト500(当時は295万円)より安い270万円だった。
搭載する1.4リッター直4ターボエンジンは、同時期にデビューしたアルファロメオのミトと同じもの。IHI製ターボチャージャーによって最高出力155ps、最大トルク20.5kgm(スポーツスイッチ使用時は23.5kgm)を発揮する。
180psを誇るエッセエッセを追加
2009年6月にはアバルト製のチューニングパーツ「エッセエッセ(esse esse)」キットを最初から組み込んだ「アバルト グランデプント エッセエッセ」を追加。専用ECU、専用フューエルインジェクター、ギャレット製ターボチャージャー、BMC製エアクリーナー等により、最高出力180ps、最大トルク27.5kgmを発揮。足まわりには専用スプリングやダンパー、高性能ブレーキパッド、前後ドリルドディスクローター、18インチタイヤ&アルミホイール(ホワイト)等が奢られ、車高はアバルト グランデプントより15mmローダウン(1480mm→1465mm)。ボディカラーは引き続きビアンコのみで、価格は335万円だった。
2010年には高性能&エコな「プントエヴォ」に進化
2010年10月には、フィアットのグランデプントが「プントエヴォ(Punto Evo)」にビッグマイナーチェンジしたため、アバルト版もプントエヴォに進化。前後のデザインが変更されたほか、1.4ターボエンジンにはスロットルの代わりに可変バルブで吸気量をコントロールする「マルチエア」システムを採用。最高出力163ps、最大トルク23.5kgm(スポーツスイッチ使用時は25.5kgm)を達成しながら燃費性能を高め、さらにアバルトで初のアイドリングストップ機能「スタート&ストップシステム」を採用した。6MT、左ハンドル、3ドアボディという仕様は、発売時から一貫している。2011年4月現在の価格は289万円で、ボディカラーはビアンコ、黒、赤、ソリッドグレーの4色となった。(2011.04)

白地に赤のストライプ。ボディサイズはミトと同等
ボディカラーは白(ビアンコ)のみで、そこに伝統の赤いストライプを配したコーディネイトがアバルトらしい。拡大されたラジエイターグリルや大径17インチアルミホイールが高性能モデルの証だ。
ベース車であるフィアット グランデプントの全幅は5ナンバー枠内だったが、アバルト版ではオーバーフェンダーが追加されて40mmワイドになり、もちろんトレッドも拡がっている。専用サスペンションによって車高は15mmローダウン(エッセエッセはさらに15mmダウン)。ちなみにボディサイズは、シャシーとエンジンを共有するアルファロメオのミト(4070mm×1720mm×1475mm)と同等で、ホイールベースも同じ2510mmだ。
絶妙なカラーリング。秀逸なシート
インテリアはブラック基調の硬派な雰囲気。その反対にパネルは真っ白で、さらに「差し色」の赤を、ステッチやメーター照明に使うあたりがイタリアンだ。原稿を書きながら気付いたのだが、白、黒、赤のカラーリングは、エクステリアとも呼応している。
何より素晴らしいのがアルカンタラ張りのシート。サポート感もいいし、畝(うね)のようなパターンを持つシート中央部の触感もいい。個人的には500万円クラスのスポーツカーに負けない座り心地だと思う。
またドライビングポジションもバッチリ決まる。左ハンドルのおかげでペダルレイアウトに無理はないし、ステアリングはチルトとテレスコが出来る。アバルト500だとテレスコがない上、右ハンドル車では足もとが少々窮屈だが、アバルト グランデプントならその心配は不要だ。
実用的な後席。トランクの使い勝手は今ひとつ
後席はアバルト500よりも広くて快適で、心なしかミトよりも広い感じがする。座り心地も良いし、クォーターウインドウからの眺めもいい。一方、フロントのバケットシートが前方視界を狭めているほか、内装が黒基調ということもあって、開放感はそれなりだ。
トランク容量は、ゴルフというよりポロクラスで、絶対的には大きくない。また敷居が高いので重い物の積み降ろしもやりにくい。一方、リアシートをダブルフォールディング(座面を跳ね上げて背もたれを倒す)で畳めるのはベース車譲りの長所だ。ただし背もたれと座面はいずれも左右一体なので、片側だけ畳むということは出来ない。.
そんな中で、どうしても不便なのはリアゲートにオープナーがないこと。500やミトにはあるのに、なぜかグランデプントでは省かれている(ベース車にもない)。というわけで、リアゲートを開ける際はリモコンキーのボタンを押すか、イグニッションをオンにした状態でセンターパネルのスイッチを押すしかない。防犯重視ということか。
低速からトルクフル。バランス良好
試乗車は初年度登録から2年弱で、走行距離はわずか6100km。内外装はいわゆるデモカーコンディションで、実際のところ最近までデモカーだったようだ。新車保証も残っていて、価格は新車時の270万円に対して249万円。「もう一声!」と言いたいところだが、すでにこのモデルは絶版&超希少車で、これを逃すとそうそう買えるものではない。
排気音は音量こそ控えめながらも、「ボォォォン」と適度にスポーティ。クラッチのミートポイントが近くて慣れが必要だったが、トルクがあるので発進はイージーだった。シフトフィーリングはストロークが長めで(ミトと一緒)、これもイタ車らしいところ。左ハンドル初心者でも、車線キープの仕方をつかめば難なく運転できると思う。
普通に流す分には、あまりターボラグは感じられないが、「スポーツブースト」ボタンを押して、アクセルを深く踏み込めば、3000回転くらいからトルクが盛り上がり、一気に6000回転まで吹け上がる。このあたりはいかにもターボ。最高出力は155ps/5500rpm、最大トルクはスポーツスイッチ時で23.5kgm/3000rpmと低回転重視だが、吹け上がりはいい。車重が1240kgと軽いせいか、ライトウエイトな感覚もある。血の気が引くような速さはないが、思い切り走るのにはちょうどいい。
一方、ホットハッチ的な荒々しさはないので、それを期待するなら最高出力が180ps、最大トルクが27.5kgmまで上がる「エッセエッセ」かも(乗ったことはないが)。ちなみに0-100km/h加速はメーカー発表値でアバルト グランデプントが8.2秒、エッセエッセが7.5秒。最高速はそれぞれ208km/h、215km/hになる。
過激さは控えめ。乗り心地も良い
ブレーキはエッセエッセのような前後ドリルドローターではないが、フロントのキャリパーはブレンボ製4ポッド。足をペダルに乗せた瞬間からキュッと制動力が立ち上がり、慣れないとカックンブレーキになるくらいだが、このあたりはブレンボ製ブレーキ+高性能パッドを装備した高級スポーツモデルと相通じる部分。なお、スポーツドライビングで必須となるヒール&トゥは、アルファのように右足つま先の左側でブレーキを踏み、右側でアクセルを踏む“トゥ&トゥ”がやりやすい。
車高はベース車の15mmダウンだが、乗り心地は問題なし。一昔前のホットハッチにあった過激さや危うさもまったくなかった。また試乗車の“動的”コンディションは新車同様で、Uカー的なヤレ感もまったくなかった。
年式・車名 2009 Abarth Grande Punto
形式 ABA-199143
寸法 全長4060mm×全幅1725mm×全高1480mm
ホイールベース 2510mm
車重 1240kg
駆動方式 前輪駆動(FF)
エンジン 1368cc 直列4気筒DOHC・4バルブ・ターボ
最高出力 155ps(114kW) /5500rpm
最大トルク 20.5kgm (201Nm)/ 5000rpm
最大トルク(スポーツスイッチ使用時) 23.5kgm (230Nm)/ 3000rpm
トランスミッション 6速MT
使用燃料/容量 プレミアムガソリン / 45L
10・15モード燃費 -km/L
タイヤ 215/45R17
最小回転半径 -m
発売時期 2009年2月
当時の新車価格 270万円
試乗車スペック
初年度登録 2009年7月
試乗日 2011年4月
販売価格 249万円(消費税込み)
走行距離 6100km
ボディカラー ビアンコ
備考 ワンオーナー
AIS評価点 5点(左ドアとサイドシルに線キズあり)
アルファのミトやアバルト500とはまったく違うクルマ
客観的に見れば、アルファロメオのミトは、アバルト グランデプントの対抗馬になり得そうだが、実際のところクルマ自体の印象は、グランデプントの方がバランスがよく、全体的に真面目だ。同時にグランデプントの柔道着を思わせるようなストイックさ、絶妙なセッティングといったあたりが、モータースポーツのプロ集団だったアバルトの気風を感じさせる。やるべきことはやってある、といった職人気質が感じられるのだ。
一方でアバルト500と比べると、グランデプントのクルマとしてのレベルは当然ながら一クラス上。正直言って、同じアバルトでもこの二つは、性格もコンセプトもまったく異なる。アバルト500がキャラクターで勝負する商品だとすれば、グランデプントは実力本位の商品と言えるかもしれない。
なお、国内のアバルト正規ディーラーは、アバルト名古屋をはじめ、アバルト東京、アバルト大阪、アバルト福岡の4拠点。さらにサービス拠点としては11都市(札幌、仙台、新潟、宇都宮、石川、沼津、芦屋、岡山、広島、松山、熊本)が指定されている。基本的にはこれら指定拠点でメンテナンスを行うことが推奨されている。
「グランデプント」「エッセエッセ」「プントエヴォ」の三択
今のところUカーの「グランデプント」や「エッセエッセ」、そして新車で買える「プントエヴォ」の価格に大差はない。なので、その中からどれを選ぶかは、純粋に好み次第だ。例えば「アバルト=武闘派」というイメージで選ぶならエッセエッセかな、といったところ。問題は導入台数がそれぞれ極めて少ないことだ。
今回試乗したグランデプントは、冷静に振り返ってみても、走りに欠点らしい欠点のない「いいクルマ」だった。かといって真面目一辺倒ではなく、やっぱり「楽しくなくっちゃ!」「エンジンをギンギンに回して全開で行く!」みたいな熱さも感じさせる。アバルトマジックは健在ということだ。
Text:丹羽 圭(Kei Niwa), DAYS
Photo:DAYS










